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分子栄養学とは? 分子栄養学の基本をわかりやすく解説!

近年、健康意識の高まりによって様々な健康情報が飛び交っています。その中でも、分子栄養学や分子整合栄養学、オーソモレキュラー療法といった言葉も多く目にするようになってきました。

また、クリニックでも栄養療法や高濃度ビタミンC点滴など分子栄養学を取り入れる所が増えてきています。この分子栄養学とは一体どのようなものなのでしょうか? 分子栄養学とオーソモレキュラー療法とでは、何が違いがあるのでしょうか?

今回は、分子栄養学がどのようなものなのかについてと、分子栄養学の基礎についてわかりやすく解説します。

目次

分子栄養学とは?

ナンナン

ねえねえ、最近よく耳にするんだけど、分子栄養学って一体どんなものなの❓ 分子整合栄養医学とかオーソモレキュラー療法とか色々な呼び方があるみたいだけど、これも何か違うの❓

はる かおる

分子栄養学について知りたいの❓ 分子栄養学はね、簡単に言うと身体のエネルギーや材料として使われる栄養をしっかり補給することで、身体本来の機能を取り戻す療法のことだよ。

はる かおる

分子栄養学は分子整合栄養医学とかオーソモレキュラー療法とか色々な呼び方があるけど、これらは呼び方が違うだけで基本的にはどれも同じなんだ。

ナンナン

なるほど、全部同じなんだね。えっと・・・それじゃあ、分子栄養学なら栄養素を使って病気を治せるってこと❓

はる かおる

うーん、簡単に言えばそうなるけど、その認識だとちょっと違うね。一言で言ってもなかなか分かりづらいから、もう少し詳しく分子栄養学について教えてあげるよ

分子栄養学(ぶんしえいようがく)とは、食物から摂取した栄養素や食品成分が、体内でどのように働くかを分子レベルで解明する学問のことです。

分子栄養学は、生体内の分子を整えて生体機能を向上させる学問。分子栄養学は、分子整合栄養医学やオーソモレキュラー療法とも呼ばれている。

分子栄養学は、人によって分子整合栄養医学(ぶんしせいごうえいよういがく)やオーソモレキュラー療法、オーソモレキュラーニュートリション、栄養療法などと呼ばれることもありますが、基本的にどれも同じものを指しています。

これら言葉の利用傾向としては、基礎理論である座学に対して分子栄養学や分子整合栄養医学などと呼ぶことが多く、対してクリニック等で提供している分子栄養学を元にしたサービスに対しては、オーソモレキュラー療法や栄養療法と呼ばれる傾向にある印象です。

このサイトでも、わかりやすく解説するために分子栄養学の基礎理論を解説する場面においては「分子栄養学」とし、クリニックで提供されている分子栄養学を元にしたサービスを解説する場面においては「オーソモレキュラー療法」という表現を用いています。

オーソモレキュラー”Orthomolecular”という言葉の意味は、ギリシャ語の「正しい」という意味に由来するortho(正常な)と molecule(分子)を組み合わせた造語です。この言葉は、ノーベル賞受賞者でもあり、分子栄養学の第一人者であるライナス・ポーリング博士が提唱しました。

分子整合栄養の理念

多くの疾患は、体内の分子が本来あるべき正常な状態ではなくなる事と考え、分子を正常化するために不足している栄養素を至適量補給することによって自然治癒力を高め、病態改善が得られる。

ノーベル化学賞受賞 ライナス・ポーリング博士

ポーリング博士は、自身が研究する鎌状赤血球症という病気の背景に、ヘモグロビン分子の異常が潜んでいることを発見し、「分子病」という病気の概念を新たに確立したことで知られています。

鎌状赤血球症とは、本来丸いお餅の真ん中をへこませたようなへん平な形をしている赤血球が、草を刈る鎌のような三日月に変形してしまう病気です。赤血球は全身に酸素を運ぶ役割を担っていて、本来のへん平な形をしていれば、細い毛細血管内でも柔軟に形を変えて通り抜けることが出来ます。

左が正常な赤血球で、右が鎌状赤血球症。正常な赤血球はお餅の真ん中をへこませたような形をしているのに対し、鎌状赤血球症では三日月型に変形している。

しかし、赤血球が三日月型に変形してしまうと、毛細血管など細い血管が通れなくなって詰まってしまい、壊れやすくなってしまいます。その結果、慢性溶血性貧血、慢性疲労、疼痛、臓器障害など、さまざまな症状につながってしまうのです。

ポーリング博士は、この鎌状赤血球症という病気の背景に、赤血球の中のヘモグロビン分子の異常が潜んでいることを発見しました。ヘモグロビンは、アミノ酸など様々な分子が組み合わさって出来ています。このヘモグロビンに含まれるたった1つのアミノ酸分子の違いが、鎌状赤血球症の原因となるのです。この発見こそが、分子の乱れが人間の病気の原因になることを世界で初めて示した瞬間でした。

それ以降、ポーリング博士は自身の研究を通じて「生体内の分子の乱れが病気の発症に関与しているのではないか」と考えるようになります。そして、前述した「多くの疾患は、体内の分子が本来あるべき正常な状態ではなくなる事と考え、分子を正常化するために不足している栄養素を至適量補給することによって自然治癒力を高め、病態改善が得られる」事を提唱したのです。

これは、私たちの身体の中に正常にあるべき分子(molecule)を至適濃度に保つ(ortho)充分量の栄養素(nutrition)を摂取し、それを適切に消化・吸収・代謝することによって生体機能が向上し、病態改善が得られるという理論です。

私達の身体は、私達が日々食べた食べ物を利用して作られています。分子栄養学は、私たちの身体がもつ本来の力を最大限に引き出し、オプティマムヘルス(単に病気を予防するだけに限らず、心身ともに最高・最善の健康状態)の実現を目指す事が最大の目的です。

ちなみに、分子栄養学とよく似たものとして「メガビタミン健康法」がありますが、メガビタミン健康法はオーソモレキュラー療法ではありません。

また、分子栄養学は通常医療の補完医療であり、通常医療に置き換わるものではありません。

ナンナン

なるほど❗分子栄養学には色んな呼び方があるけど、どれもみんな同じ物を指しているんだね

はる かおる

そうだよ。このサイト名も「分子栄養療法ナビ」になっているけど、これは「分子栄養学」と「オーソモレキュラー療法」を足した造語なんだ。色んな呼び方があるけど、基本的にはどれも同じ物を指しているよ。

分子栄養学基礎① 私達の身体は、私達が食べた物で出来ている!

私達の身体は200種類以上、およそ数十兆個の細胞が集まって出来ています。これら細胞が集まることで心臓や脳、肺や血管、皮膚や筋肉などの組織が作られ、組織が集まることによって私達の身体が作られています。

私達の身体は、数十兆個の細胞が集まって構成されている。この細胞は、すべて私達が食べた食べ物(栄養素)で出来ている

では、この細胞自体を作ったり、動かしたりするエネルギー源や材料は一体何なのでしょうか?

これこそが、「タンパク質」「脂質」「糖質」「ビタミン」「ミネラル」などの栄養素(分子)であり、生命活動を営むために欠かせない成分のことです。

細胞は、タンパク質、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラルなどを利用して身体を作ったり、動かしたりしている

細胞の一つ一つをもっと深く見ていくと、やがてこれ以上小さく見ることが出来ない「分子」という状態になります。

分子はビタミンやミネラル、アミノ酸などの分子(栄養素)のことで、これら分子(栄養素)が集まって構成された物が細胞です。

そして細胞は、糖質や脂質などの分子(栄養素)をエネルギーとして利用することで体温を作り出したり、身体を動かしたりしています。

この細胞は、すべて栄養素で出来ていて、私達の食事を通じて必要な栄養素を得て生命活動を行っている

私達の筋肉や臓器、骨なども、タンパク質やミネラル等で作られている事はご存じですよね。これらタンパク質やミネラル、糖質や脂質などは、胃や腸などの消化管を通じて消化(繋がった分子をバラバラに)した後、血管を通って細胞に必要な分子が送り届けられています。

つまり、私達は食事を通じて細胞に必要な分子(栄養素)を得て、組織の機能を維持し、生命活動を行っています。このように、私達の身体は、私達が食べた「食べ物」や「栄養素」で作られているのです。

ナンナン

なるほど❗いつもなんとなく食べ物を食べてたけど、食べる事は細胞に必要な材料を送り届けることだったんだね❗

はる かおる

そうだよ。だからいい加減な食事をしたり、食べなかったりすると細胞に十分な材料やエネルギーが届けられなくなってしまう。これによって細胞の機能が低下し、様々な病気に繋がってしまうんだ

分子栄養学基礎② 身体の細胞は常に新しく作り替えられ、入れ替わっている

そして、私達の身体の中では、常に古い細胞や傷ついた細胞が壊され、新しい細胞へと作り替えられています。

この古い細胞を分解することを「異化」、新しく細胞を合成することを「同化」と呼び、これら一連の流れを含めて新陳代謝(ターンオーバー)と言います。

細胞を合成する量(同化)よりも分解する量(異化)が進むと老化となり、対して細胞を分解する量(異化)よりも細胞を合成する量(同化)が多いと成長同化と異化のバランスがとれていると健康維持となります。

細胞は日々作り替えられている。細胞が分解されることを異化、細胞が合成されることを同化という。状態によって至適量の栄養摂取を行い、細胞機能を正常に保つことが重要

この同化を行うために必要となるのが、細胞の材料となる栄養素です。もし栄養素が足りない場合は、細胞の機能が低下したり、同化が出来ずに異化が亢進したりして老化が進んでしまいます。

この細胞の新陳代謝を正常に行うために必要なのが、「タンパク質」や「脂質」「糖質」などの三大栄養素と呼ばれる栄養素です。

細胞を作り替える際に必要な材料やエネルギー源として使われているのが、タンパク質、脂質、炭水化物の三大栄養素

三大栄養素には主に2つの役割があり、1つは細胞が活動するために必要なエネルギー源となること、もう一つが細胞の材料となる事です。

例えば、タンパク質と糖質は1gあたり4kcal、脂質は1gあたり9kcalのエネルギー源として利用出来ます。他にも、タンパク質はあらゆる細胞を構成する材料として使われるほか、脂質も細胞膜やホルモンを構成する材料として使われています。

細胞が新しい細胞を作るときには、タンパク質や脂質などの材料に加えて、細胞を合成するためのエネルギー源も必要です。

三大栄養素は、新陳代謝を促すための最も基礎的な材料となるほか、細胞にエネルギーを供給する役割も担っています。

ただ、この3大栄養素だけを摂っても、身体は3大栄養素を上手く利用することが出来ません。3大栄養素を上手く代謝するためには、酵素の働きが必要です。この酵素の働きをサポートしているのが、ビタミンやミネラル等の「補酵素」と呼ばれる栄養素です。

酵素とは、身体の中で消化・吸収・代謝に関わる様々な化学反応を引き起こすために必須のタンパク質のことです。私達が食べた食べ物を消化・吸収・代謝したり、排泄したりなど身体の中で起こる殆どの化学反応には、この酵素が必要です。

ビタミン・ミネラルは酵素と結びついて初めて働けるようになる。この酵素の殆どはタンパク質から作られている

例えば、私達は肉や魚などからタンパク質を摂取しますよね。しかし、肉や魚などタンパク質の状態では分子が大きいため、そのまま吸収したり利用したりすることが出来ません。これらタンパク質を体内で利用するためには、タンパク質を細かく分解することが必要です。

このタンパク質をバラバラに分解する役割を担っているのが、胃酸に含まれている「ペプシン」と呼ばれる消化酵素です。胃腸は、私達が食べたタンパク質を胃酸と共に消化酵素で分解し、「ペプチド」「アミノ酸」と呼ばれる状態までバラバラにしてくれる働きがあります。

体内で作られる消化酵素の例。主に唾液に含まれるアミラーゼや、胃酸に含まれるペプシン、すい臓から分泌されるリパーゼなどがある

この他、唾液に含まれる「アミラーゼ」という消化酵素も酵素の一種です。アミラーゼは、お米やパンなどのデンプン(炭水化物)をバラバラに消化し、ブドウ糖にまで分子を細かくして吸収しやすくする役割があります。このような消化酵素の一部にも、補酵素であるビタミンBが必要になります。

また、腸から吸収したアミノ酸やブドウ糖、脂肪酸などは、利用するときに代謝酵素の助けが必要です。主な物としては、グルコース(ブドウ糖)を貯蔵型の糖であるグリコーゲンに変換する「グリコーゲンシンターゼ」や、血液検査で肝臓の状態を見る際によく用いられるGOT(グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ)やGPT(グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ)も代謝酵素の1つです。

このGOTやGPTは、主に肝臓でグルタミン酸を「アスパラギン酸」や「アラニン」と呼ばれるアミノ酸に相互に変換するために必要な酵素です。これらアミノ酸は細胞の材料となるタンパク質合成に関与しているほか、免疫細胞のエネルギー源や糖原性アミノ酸(ブドウ糖に変わるアミノ酸)として血糖値の調節としても利用されています。

例えば、私達の脳細胞は、ブドウ糖を唯一のエネルギー源としているため、ブドウ糖が足りなくなると脳機能が低下して死に至ってしまいます。これを防ぐためにも、身体はブドウ糖を貯蔵できる形のグリコーゲンに変換し、筋肉や肝臓に貯えておいて、必要なときにブドウ糖に分解して利用しています。

このブドウ糖をグリコーゲンに合成したり、グリコーゲンからブドウ糖に分解する際にも、補酵素としてビタミンB群の助けが必要です。

糖質(グルコース)は、肝臓でグリコーゲンという貯蔵型の糖に合成され、必要に応じて分解して血中へ放出している

また、激しい運動などで肝臓や筋肉に貯めておいたグリコーゲンが枯渇してしまった場合は、低血糖に陥らないように、GOTやGPTの働きによって得られた「アラニン」というアミノ酸を使ってブドウ糖に変換し、低血糖に陥ることを防いでいます。このGOTやGPTがしっかり働くためにも、ビタミンB群が必要になります。

このように、酵素がしっかり働くためには、補酵素としてビタミンとミネラルの助けが必要です。ビタミンとミネラルは、補酵素として酵素の働きをサポートしています。この酵素がしっかり働くことで3大栄養素が上手く代謝され、細胞の正常な働きや新陳代謝を適切に保つことが出来るのです。

このため、正常な代謝を行うためには、先ほど解説した3大栄養素に加えて、ビタミンとミネラルもしっかり補給していくことが大切です。3大栄養素にビタミンとミネラルを加えたものを5大栄養素と呼びます。

この酵素を作り出す量や効き目には個人差があり、加齢と共に徐々に低下していきます。細胞の機能を正常に保つためには、年齢を重ねる毎により多くのビタミンやミネラル・酵素の補給が必要です。

ナンナン

なるほど❗ビタミンやミネラルが重要ってことはなんとなく聞いたことがあるけど、この2つは3大栄養素を利用するために必要なんだね

はる かおる

そうだよ。これら栄養素が協力して働くことで、細胞や身体を作る材料として使われるんだ。そして、身体の中では、日々古い細胞や傷ついた細胞が壊され、新しい細胞へと作り替えられているんだよ

栄養素の働きは家の建築に例えると分かりやすい!

分子栄養学で栄養素の働きを分かりやすく伝えるときによく使われる例えが、家の建築です。
家を建てるときには、材料となる木材や板、家を建てるために必要な道具や、家を建ててくれる大工さんが必要ですよね。

分子栄養学では、この家を建てるのに必要な木材をタンパク質、板を脂質、大工道具をビタミン・ミネラル、大工さんを炭水化物としてそれぞれ例えています。

細胞の合成を家づくりに例えてみると、まず家を立てるためには柱となる木材=タンパク質が必要です。そして、壁や床、天井などを作るための板=脂質も欠かせません。脂質は細胞膜を構成する成分として必要です。

ただ、これら材料となる木材=タンパク質や板=脂質があっても、大工道具や大工さんが足りなければ家を建てることが出来ませんよね。この木材や板を組み立てるために必要な道具が、ビタミンとミネラルです。

そして、この材料となる木材や板、道具が揃ったとしても、家を建てるためにはこれらを用いて実際に家を建ててくれる人が必要になります。これら材料や道具を用いて、実際に家を建ててくれる大工さんが炭水化物です。

細胞の合成では、炭水化物や脂質をエネルギーとして使いながら古くなった細胞を壊し、新しい材料のタンパク質や脂質、道具となるビタミンやミネラルを利用して、また新たな細胞を合成しています。大工さんは、古くなった家を取り壊し、また新しい家に建て替えるために日夜頑張っているのです。

このように、5大栄養素がそれぞれバランスよく体内に存在することが、正常な代謝を行うためには必要です。このバランスが崩れてしまうことが細胞機能の低下を招き、体調不良や生活習慣病などの病気に繋がってしまう原因になります。

よく、脂質や炭水化物の摂りすぎがよくないと言われているのは、大工さんばっかり雇って、やる事が無い大工さんが身体の中に溢れてしまう状態になってしまうからです。このやる事が無い大工さんが体内に溢れてしまう状態が続くと、肥満の原因になります。

ちなみに、体内では木材=タンパク質と板=脂質は、大工さん(カロリー)としても利用する事が出来ます。これは、タンパク質も脂質も、炭水化物のようにエネルギーとして使えるためです。この大工さんとしての利用は、木材であるタンパク質を利用する場合では利用効率が悪く、板である脂質を利用する方がエネルギー価が高いという特徴があります。

ただ、一度木材(タンパク質)や板(脂質)を大工さんに変えてしまうと、もう二度と材料となる木材や板には戻すことが出来ません。これは、タンパク質がエネルギー源として使えるブドウ糖や中性脂肪に、脂質が中性脂肪に変換出来るのに対し、その逆となるブドウ糖や中性脂肪からは、タンパク質や必須脂肪酸(体内では合成出来ず、食事で摂取する必要がある油)が合成出来ないためです。

分子栄養学では、家づくりである細胞の合成や代謝で問題となっている箇所を特定し、代謝や生体内の活動がスムーズに行われるよう、至適量の材料と道具、大工さんを整えてあげる事を目的としています。

分子栄養学基礎③ なんとなく体調が悪い、原因となる病気が見つからない不定愁訴は、栄養欠損が原因で招来する

では、もし栄養素の摂取量が不足し、細胞で利用出来る栄養素が足りなくなってしまったらどうなってしまうのでしょうか?

細胞は常に栄養素である分子を利用して活動を行っているため、栄養状態が悪くなったり不足したりしてしまうと、本来細胞が行うべき活動がうまく行えなくなります。

この細胞の働きが低下すると、代謝や修復力の低下に繋がり、強いては心身の異常や不調を引き起こす原因となるのです。

例えば、女性に多い不調として「身体が冷える」「眠れない」「疲れやすい」「やる気が出ない」「生理不順」などの不調があります。これら不調の原因の1つとしては、鉄欠乏性貧血を始めとした潜在性のミネラル不足が関係していることが挙げられます。

栄養素は細胞の正常な働きに必要な事から、不足すると体調の変化が現れるものもがある。その1つは、潜在性ミネラル不足によるもの

鉄欠乏性貧血とは、その名の通り鉄の摂取量が少ない場合や不足している場合に起こる貧血のことです。この鉄欠乏性貧血は、特に月経のある20代〜40代日本人女性のおよそ7割が鉄欠乏性貧血もしくは隠れ鉄欠乏性貧血といわれています。

この理由としては、女性は毎月の月経によって定期的に出血してしまうことに加え、食べないダイエットや菜食主義、加工食品の摂取量増加など食生活の変化によって、鉄の摂取量が不足してしまっているためです。そして、この貧血の中でも特に気をつけたいのが、後者の「隠れ鉄欠乏性貧血」です。

フェリチン値のみが低値を示す状態を「潜在性鉄欠乏性貧血」や「隠れ貧血」と言う。ケンビックスでは、KYB運動開始当初からフェリチン値のみが低値を示す潜在性鉄欠乏性貧血に着目していた。

隠れ鉄欠乏性貧血は、またの名を「潜在性鉄欠乏性貧血」「隠れ鉄不足」「隠れ貧血」などとも呼ばれ、貯蔵鉄である「フェリチン値」のみが低値を示している状態のことです。

通常、貧血を診断する検査では、「ヘモグロビン」や「ヘマトクリット」などの数値のみで貧血の診断を行っています。これらの数値が基準値を上回っている場合では、基本的に「問題なし」とされてしまうことが一般的です。

しかし、隠れ貧血の状態では、「ヘモグロビン」や「ヘマトクリット」などの数値は正常範囲になっていても、体内の鉄の貯蔵量である「フェリチン」が少なくなっています。

鉄が不足すると、フェリチン鉄から補充される。フェリチン鉄が少ないと、体内で鉄が不足して貧血になりやすい

フェリチンは、出血してもすぐさま貧血とならないよう、ヘモグロビンや赤血球を作るための鉄を貯めておく役割を担っています。このフェリチンの量が少なくなってしまうと、いざ出血してしまったときにヘモグロビンなどに使う鉄が十分にありません。

すると、通常時は貧血と診断されていなくても、月経などで出血した場合には、すぐにヘモグロビン値が低下してしまい、貧血に陥ってしまうのです。

このように、貯蔵鉄であるフェリチン値が低く、出血するとすぐに貧血となってしまう状態が隠れ貧血です。このフェリチン値の検査は、通常の貧血検査では殆ど行われていません。病院の貧血検査では問題なしとされていても、潜在的に貧血の状態になっていることから、隠れ貧血といわれています。

この隠れ貧血の問題点は、貧血と診断されていなくても貧血と同じ不調が引き起こされる事が挙げられます。鉄欠乏性貧血は、めまいや息切れ、疲れやすい、やる気が出ない、身体が冷えるなど、様々な不調が引き起こされる原因です。

鉄欠乏性貧血とその症状。貧血は、めまいや疲労感、冷え性、やる気が出ないなど様々な不調が引き起こされる

加えて、隠れ貧血による不調は徐々に進行していくことから、これら不調がある事に身体が慣れてしまって、頭痛やめまい、倦怠感や疲れやすいなどの症状を抱えている事に気がつかない場合もあります。

では、なぜ貧血によってこのような不調が引き起こされるのでしょうか?

このような貧血によって様々な不調が引き起こされるメカニズムとしては、①鉄不足によって全身に運ぶ酸素の量が低下してしまうこと、②鉄と酸素は細胞内にあるミトコンドリアがエネルギーを作り出すために必要で、鉄不足だと作り出せるエネルギー量が低下してしまうこと、③鉄は脳の神経伝達物質の合成に関わっていて、鉄不足だと脳の神経伝達物質の合成に影響が出てしまうことが挙げられます。

具体的には、細胞内にある「ミトコンドリア」と呼ばれる部分が、5大栄養素を元にATPと呼ばれるエネルギーの元を作り出していることが関係しています。このATP(アデノシン三リン酸)は、筋肉を動かしたり、体温を維持したり、嗅覚や味覚の機能、先ほど解説した細胞の同化と異化に至るまで、あらゆる事に使われているエネルギー源です。

鉄はミトコンドリアのエネルギー産生(ATP産生)に重要な役割をもつ

このミトコンドリアがエネルギーの元となるATPを作り出すためには、材料となる5大栄養素に加えて、酸素が必要です。鉄はミトコンドリアがATPを作り出す際の補酵素として必要なほか、ヘモグロビンの構成成分として全身の細胞に酸素を運ぶ働きをしています。

貧血になってしまうと、ミトコンドリアが利用出来る酸素や鉄が少なくなってしまいます。この結果、エネルギーの元となるATPの産生量が減少して身体がエネルギー不足となり、疲れやすくなったりめまいがしたり、やる気が起きなかったりと様々な不定愁訴に繋がってしまうのです。

また、鉄はミトコンドリアでエネルギー産生として使われる以外にも、脳の神経伝達物質の合成にも使われています。下の画像は、脳の神経伝達物質の合成経路と合成に必要な栄養素を表したものです。

脳の神経伝達物質の合成経路と合成に必要な栄養素。合成の第一段階で鉄が必要になっていることが分かる

まず、神経伝達物質を合成するためには、材料として「アミノ酸」が必要になります。このアミノ酸は、肉や魚などのタンパク質を胃で分解し、小腸で吸収することで補給しています。このアミノ酸にはおよそ20種類ありますが、そのうち脳の神経伝達物質として利用しているのは「L-グルタミン」と「L-フェニルアラニン」「L-トリプトファン」です。

この3つのアミノ酸がそれぞれ「鉄」や「葉酸」「ナイアシン」などを利用して「L-グルタミン酸」や「L-チロシン」「5-HTP(ヒドロキシトリプトファン)」などに合成され、最終的に「GABA」や「ドーパミン」「セロトニン」や「メラトニン」などに合成されて利用されています。

よく、「セロトニンは幸せホルモン」だということをどこかで聞いたことがありませんか?
セロトニンはノルアドレナリンやドーパミンなどを調節する以外にも、分泌されることで多幸感を得られるホルモンでもあります。このセロトニンから合成される「メラトニン」は、体内時計を司っていたり質の良い睡眠を司っており、副交感神経を優位にしてリラックスするために必要なホルモンです。

これらセロトニンやメラトニンなど、脳の神経伝達物質を合成する際には、必ず鉄が必要です。例えば、「L-フェニルアラニン」から「L-チロシン」に合成する際には鉄が必要ですし、「L-トリプトファン」から「5-HTP(ヒドロキシトリプトファン)」に合成する時にも鉄が必要です。この時に体内で鉄分が不足していると、脳の神経伝達物質を合成するための材料が足りなくなってしまい、自律神経の乱れやうつ症状を引き起こし、感情が抑えられない、イライラする、頭痛やめまいがするなど様々な体調不良へと繋がってしまうのです。

鉄は栄養素の運搬や神経伝達物質の合成に必要であり、不足すると様々な不調を引き起こす恐れがある

このように、特定の栄養素(分子)が不足することによって、心身共に大きな不調が引き起こされる原因となります。つまり、不調はこの栄養素である分子が乱れた状態のことです。

逆に生体内にあるべき分子を十分な濃度で保つことが出来れば、生体機能と自然治癒力が向上し、病気を防ぐことが可能になります。分子栄養学は、この不足した栄養素を十分に補うことで、身体が本来持っている機能を取り戻す療法です。

KYBクラブで栄養療法による不定愁訴の改善率。適切な栄養アプローチによって、およそ80%の方の症状が改善した

ただし、鉄が足りないからと言って単に鉄を補給すればよいわけではありません。貧血は単に鉄の摂取量が足りないだけでは無く、その根本には消化吸収能の低下や自律神経の乱れ、腸内環境の悪化など、貧血の原因には必ず理由があります。

この根本原因からアプローチし、生体内の分子の乱れを整えていくことが、本当の分子栄養学的アプローチです。

ナンナン

うぅ・・ナンナンも寒がりなんだけど、もしかして貧血かなぁ❓

はる かおる

うーん、症状だけで貧血と決めつけるのはよくないね。身体の冷えは、甲状腺機能障害とか他にも色々原因が考えられるよ。

ナンナン

じゃあ、ナンナンの不調は鉄分を補給しても改善しないってこと❓

はる かおる

いや、貧血や他の病気も含めて、栄養欠損が関係しているってこと。重要なのは、何故その不調が引き起こされているかをきちんと検査して、適切な栄養アプローチを行う事が重要だね。

分子栄養学では、フェリチン値の単体項目のみで貧血かどうかを判断することはありません!また、貧血の方に鉄だけを摂らせることはありません!

鉄欠乏性貧血と聞くと単に「鉄分の摂取量が足りないだけ」と思われるかも知れませんが、貧血は鉄分が足りない以外にも、様々な原因や栄養欠損が関係しています。

例えば、ピロリ菌に感染している場合や、婦人科疾患による過多月経、スポーツにおける溶血、自律神経の乱れによる消化吸収能の低下、消化管からの出血、タンパク質やビタミンB群、亜鉛などの栄養欠損など、様々な原因が複雑に絡み合って発生しています。

特に重度の貧血を引き起こしている場合には、消化管の出血や婦人科疾患など出血を伴う何らかの疾病が隠れている可能性があります。貧血を改善する際には、これら出血原因となっている疾病から先に対処する必要があるため、まずは疑わしい原因を特定するための検査を受けることが重要です。

また、造血を行うためには鉄分以外にもタンパク質やビタミンB群、亜鉛、セレン、マンガンなど様々な栄養素が必要です。鉄分を十分に補給しても、これら栄養素が足りない場合や、十分に消化吸収出来ない場合でも貧血となる場合があります。

この消化吸収に問題が起こる原因としては、先に挙げたピロリ菌の感染やIBS(過敏性腸症候群)、ストレスや自律神経の乱れなど、様々な原因があります。このような問題を抱えていた場合は、問題となっている疾病や症状の対処も同時に行う必要があります。このため、分子栄養学では貧血の方に鉄分のみを単体で摂取させることはありません。

それから、フェリチン値は肝臓病などの炎症性疾患や、リウマチなど自己免疫性疾患などの炎症でも上昇します。フェリチン値が上昇していても、鉄が足りているとは限りませんこのような理由から、貧血の判断は関連項目や病態、生活習慣を含めた幅広い検査結果を基に解析し、その方それぞれに最適な分子栄養学的アプローチをご提案しています。単にフェリチン値のみを見て貧血かどうかを判断し、アプローチを行う事は、分子栄養学ではありませんのでご注意ください。

分子栄養学基礎④ 栄養による改善には個体差の考慮と量が必要

次に分子栄養学の基本となる考え方は、栄養による改善には個体差の考慮と量が必要である事です。

上述したように、鉄欠乏性貧血など栄養欠損がある場合には、必ず原因となっている理由があります。この理由は一人一人違うため、必ず個体差を考慮することが必要です。

栄養素の必要量や不足している原因には個体差がある。必要な栄養素や必要量は千差万別

例えば、年齢や性別、病気や怪我の度合い、ストレスや環境の影響、食生活や生活習慣などによって、栄養欠損となる原因や必要な栄養素の量には違いが現れます。

先ほどの貧血の例で言えば、男性と女性で貧血となる原因は異なりますし、男性と女性で鉄分の必要量は異なります。また、単に鉄分の摂取量が不足していて、少し鉄分を補給すれば足りる人も居れば、何らかの疾病が関係していて、鉄分を摂っても摂っても足りない方もいます。このように、栄養素の必要量には個体差があるため、栄養素の必要量は千差万別です。

加えて、同一人物であっても、時と場合に応じて栄養素の必要量は異なってきます。その日その時によって状況や必要量が異なるため、日々最適な量を意識して栄養を補給することが大切です。

必要な栄養素量は人によっても、場合によっても異なる。状態に応じて必要な量を摂取することが重要

特に、活動量が大きいときや、ストレスがかかったとき、風邪など病気のときでは栄養素の消費量が大きくなることから、栄養素の必要量が多くなります。また、慢性的な病気(糖尿病やアレルギー疾患、肝臓病など)やガンの時などは、更に必要量が大きくなります。

例え同一人物だとしても、加齢や生活習慣の変化、病態の変化、体調の変化は常に起こっています。日々の状態に合わせて必要量の栄養素を摂取していくことが、分子栄養学の基本です。

そして、栄養素による改善の際には、一定以上の量を補給していくことも必要です。特に栄養素においては、摂取量が少ないと殆ど身体に変化が現れないことから、栄養摂取の効果は用量に大きく依存しています。この一定以上の量を摂取することで栄養素の効果を発揮させることを「ドーズレスポンス」と言います。

栄養素は、一定以上の量を摂取してはじめて効果を発揮する。この一定以上の量を摂取することで栄養素の効果を発揮させることをドーズレスポンスという

例えばビタミンCの場合、血流に乗って全身の細胞に運ばれて抗酸化作用等を発揮するためには、ビタミンCの血中濃度を一定以上に維持することが必要です。

この抗酸化作用などを発揮するためには、ビタミンCを一度に1,000mg以上摂取して初めて血中濃度の上昇が見られることが分かっています。ただし、ビタミンCは水溶性ビタミンのため、摂取後3〜4時間で血中濃度が最大となり、その後は尿と共に徐々に体外へ排泄されてしまいます。

そのため、ビタミンCの血中濃度を維持するためには、一度にある程度まとまった量(1,000mg以上)を定期的に補給することが必要です。

更に、ビタミンCには美白作用や抗ウィルス作用、ヒスタミン抑制作用、抗がん作用などがあり、抗ウィルス作用が期待出来るビタミンCの血中濃度はおよそ10-15mg/dL、ヒスタミン抑制作用を発揮する血中濃度は88mg/dL程度と言われています。

このような違いがあることから、ビタミンCの摂取量はその人の状態や目的によっても大きく変わってきます。また、その人の状態や生活習慣、年齢や性別、酵素と基質の親和性の個体差などによっても摂取量は大きく変わります。この状態や目的に応じて、最適な栄養素の量を摂取すること。これが至適量と呼ばれる量です。

栄養素は体内の酵素と結びついて初めて働けるようになる。この酵素と栄養素の親和性には個体差があることから、自身に必要な至適量を考慮することが大切

オーソモレキュラー療法では、至適量の栄養素を摂取して初めて意味がある!

一般的な栄養補給の場合、健康な人であればビタミンCの摂取量は一日あたり100mg〜200mg程度で十分と言われていますよね。しかし、この摂取量は壊血病などビタミンC不足による病気を防ぐ最低限の摂取量であって、既に病気になってしまった人の場合や、状態の改善を目的とした場合では十分な補給量とは言えません。

体内での栄養素の消費量は常に変化しており、病気や怪我をしたときや、ストレスがかかったときなどにその消費量は一気に増加します。この消費量よりも摂取量が少ないと栄養状態が悪化し、逆に消費量よりも十分な栄養素の摂取を行えば、病気の早期回復や予防が期待出来ます。分子栄養学では、生体内の乱れた分子を整えるために、至適量の栄養を摂取することが非常に重要です。

加えて、このドーズレスポンスによる至適量の栄養補給は、基本的に年単位での継続が基本となります。一日や一週間、一ヶ月程度続けただけでは栄養素の摂取量が十分と言えず、ほとんど効果は得られません。

この至適量の栄養補給を、年単位で継続して初めて効果が期待出来ます。例えば、次の図を見てください。

栄養素は、一週間や一ヶ月など短期間だけ集中して補給しても殆ど血中濃度は上がらない。そのため、栄養療法は年単位で継続することが必要

このグラフは、男女にヘム鉄(肉や魚などに含まれる動物性の鉄分)を一日あたり45mg摂取してもらい、摂取年数に応じて血清フェリチン値がどのように変化したのかを表したものです。左の縦軸が血清フェリチン値、下の横軸が摂取年数です。

摂取前から比較すると、1年、2年、5年と年月を追う毎に緩やかに上昇していることが分かります。この時、摂取前から1年目の間を見ても、あまり数値が上昇していないことが分かりますよね。

このように、栄養素を一週間や一ヶ月程度の短期間補給しただけではあまり血中濃度が上がらず(日々利用、排泄されるため)、年単位で至適量を補給し続けて初めて効果が期待出来ます。

分子栄養学を実践する際は、至適量の栄養補給を年単位で行う必要性があることを、十分に理解しておきましょう。

ナンナン

なるほど、栄養療法では個体差を意識することと、栄養素はある程度の量を継続して摂らないとあまり意味が無いんだね

はる かおる

そうだよ、細胞は日々、栄養素を元に作り替えられているからね。その代謝に必要な量を、個人差に合わせて摂取していくことが大切なんだ。

食事療法と栄養療法の違い食事だけで至適量の栄養補給を行う事はほぼ不可能です!

分子栄養学とよく比較される対象として、厚生労働省の定める栄養摂取基準(日本人の食事摂取基準)や一般的な栄養学があります。

分子栄養学では通常の食事で得られる栄養素の量よりも遙かに多い栄養素の量をサプリメントで長期摂取することから、厚生労働省の定める栄養摂取基準を大きく上回り、過剰摂取になるのでは?といった声を頂く事があります。

また、分子栄養学は食事療法と混同されることも多く、栄養素はサプリメント以外にも食事から摂取する事も出来るため、栄養素の含有量が多い食品を多く食べるなどすれば、食事だけで至適量の栄養素が摂れるのではないか?といった意見を多く受けます。

分子栄養学は、この厚生労働省の定める栄養摂取基準や一般的な栄養学、食事療法などと比較されることが多いのですが、分子栄養学とこれらは全くの別物です。

まず、これら3つと分子栄養学とでは、その目的と考え方が異なります。厚生労働省の定める栄養の摂取基準は、疾病などがない健康な人が欠乏症にならないために最低限必要となる栄養の摂取基準を定めたものです。この摂取基準は、病態を抱える方向けに定められたものではありません。

一般の栄養学は、この厚生労働省の定める基準に則ったものになります。つまり、一般の栄養学は欠乏症を予防することが最大の目的です。

次に、食事療法では、主に食事をコントロールする事で病気の予防や健康を維持する手法です。

食事療法は、食事をコントロールする事で病気の予防や健康を維持する方法。栄養療法は、至適量の栄養素をサプリメントで摂取する事によって、身体本来の機能を取り戻す療法

食事療法では、糖尿病など特定の病気に対して、食事をコントロールする事で病気の予防や健康を維持することを目的としています。

対してオーソモレキュラー療法では、更に踏み込んで、食事だけでは補えない栄養素をサプリメント(分子整合栄養学実践専用サプリメント)で補給する療法です。これにより、栄養不良を改善させ、細胞の機能や身体の機能を高め、病気や不調を回復させることを目的としています。

オーソモレキュラー療法における栄養素の過不足の判断については、定期的な血液検査によってモニタリングしており、既に重度の貧血など病態を抱える方が必要とされる栄養素の量=至適量を補給して頂くものですので、過剰摂取になる心配はありません。

食事療法
食事をコントロールする事で病気の予防や健康を維持する

栄養療法
食事だけでは補えない栄養素をサプリメント(分子整合栄養学実践専用サプリメント)で補給することにより栄養不良を改善させ、細胞の機能や身体の機能を高め、病気や不調を回復させる自然治癒の基礎的治療法

また、一般の栄養学や食事療法では、消化吸収能や病態の考慮、ドーズレスポンス、至適量などの考慮は全く行われませんが、分子栄養学ではこれらも含めたアプローチを行っています。

よって、厚生労働省の定める栄養摂取基準や一般的な栄養学、食事療法と分子栄養学とでは、一線を画しています。

例えば、先ほど解説したヘム鉄を多く含む食べ物としては「赤身肉」や「レバー」があります。赤身肉のヒレやランプ、モモの部位には、100gあたりおよそ2.5mg程度のヘム鉄が含まれています。

厚生労働省の定める栄養摂取基準では、一日あたりの鉄分摂取推奨量は30〜49歳の男性で7. 5mg、30〜49歳の月経のある女性で11.0mgです。

これを先ほどの赤身肉で換算してみると、男性で一日あたり300g、女性では440gが必要になります。しかし、この摂取量はあくまで健康な人が貧血にならないよう推奨されている摂取量ですので、既に貧血や隠れ貧血になってしまっている方や、過多月経など病態を抱えている方には当てはまりません。

貧血や婦人科疾患など病態を抱えている方は、更に多くの鉄分の摂取が必要です。仮にヘム鉄摂取目標を45mgとし、これを赤身肉など食事だけで摂ろうとすると、およそ一日に2kgもの量を食べる必要があります。一日に2kgもの肉を食べるなんてことは、とても現実的ではありません。

また、食べた食べ物がしっかりと消化・吸収出来るかどうかも問題です。人によっては胃や腸の働きや、胆汁の分泌量などに問題があり、食べたものをしっかりと消化吸収出来ない方もいます。このような方に消化吸収能を考慮せずに、肉などの消化に負担がかかるものを大量に食べさせることは、むしろ病態の悪化に繋がってしまう可能性も高いです。

加えて、食品から特定の栄養素を大量に摂取しようとした場合、必要ない栄養素の摂取量も多くなり、脂質の摂取量増加など逆に栄養バランスが崩れてしまう事も考えられます。

また、食事療法によって特定の食べ物を排除し続けた場合、むしろ食事や栄養のバランスが崩れてしまうこともあり得ます。

対してサプリメントの場合では、消化と吸収を考慮した設計によって製造されているものもあり、適切にサプリメントを用いることで食事よりも安全に栄養素を補給することが出来ます。サプリメントなら、特定の栄養素をピンポイントで補給することが出来るため、必要ない栄養素を過剰に摂取してしまう心配もありません。

このように、食事療法と栄養療法では全く役割が異なります。食事だけで至適量の栄養補給を行う事は、むしろ健康を害してしまう危険性がありますので注意して下さい。

一般の栄養学は、欠乏症や病気の予防を目的としたもの

オーソモレキュラー療法は、サプリメントで積極的に栄養補給し、病気や不調の回復をサポートしたり、身体の機能を高めたりするもの

分子栄養学基礎⑤ 摂取する栄養素は必ず天然由来で、かつ前駆体であること

分子栄養学、オーソモレキュラー療法ではサプリメントを用いて栄養補給を行います。このサプリメントは、何でも良いというわけではありません。分子栄養学を実践する際の栄養素は、必ず天然由来で、かつ前駆体である事が必要です。

栄養素には大きく分けて、「合成型」と「天然型」、「活性型」と「前駆体」があります。合成型とは、栄養素の分子構造を変化させて作られた人工的なもの、天然型は野菜や果物、魚介や酵母など自然界に存在するものから抽出したものが天然型です。

そして、活性型の栄養素とは骨粗しょう症の治療に用いられているビタミンD製剤などです。お薬で使われる栄養素は、既に活性型として配合されています。前駆体とは、この活性型になる前の状態を言い、食品やサプリメントに含まれる栄養素の状態になります。

この前駆体と活性型の違いは、その働きの違いです。食品などに含まれる栄養素は、体内に入ってもそのままの形では働くことが出来ません。いったん身体の中で働ける形(活性型)に変えられてから、やっと働けるようになります。

このような天然である事、活性型になる前の前駆体である事を、クルードなプレカーサーと言います。クルード(Crude)というのは「天然の、ありのままの、加工していない」という意味で、プレカーサー(precursor)は「前駆体=活性化される前の形」という意味です。

分子栄養学で摂取する栄養素は、必ず天然由来で、かつ前駆体である事が非常に重要です。

なぜなら、栄養素は体内で酵素と結びついて初めて利用出来る状態になります。また、栄養素は身体を作る材料としても使われています。そのためには、限りなく天然に近い形である事が必要です。人工的に合成された栄養素や、もともと天然物を使っていても保存性を良くするために誘導体をつけたり加工したりしたものでは、体内で酵素と結びつけずに、異物として排泄されたり効果が弱まったりしてしまう可能性が高くなるためです。

摂取したビタミンやミネラル等は、タンパク質から作られた酵素と結びついて初めて働けるようになる。このためには、天然由来で前駆体の栄養素を摂取する必要がある

例えば、ビタミンEと一言で言っても、大きく分けて「合成のビタミンE」と「天然のビタミンE」があります。合成のビタミンEと天然のビタミンEの大きな違いは、期待出来る抗酸化力の違いです。

ビタミンEは脂溶性の抗酸化物質で、主に細胞膜に組み込まれて細胞膜を酸化から守る働きをしています。

ビタミンEは、細胞膜に組み込まれて細胞の酸化を防いでくれる

食品由来の天然成分から抽出した物は「d-α-トコフェロール」と言って、もっとも抗酸化力が期待出来るビタミンEです。分子栄養学実践専用サプリメントでは、この天然由来のビタミンEが配合されています。

薬やサプリメントに含まれているビタミンEの違い。同じに見えてもその分子構造や製造方法が異なり、効果も全く異なる。

対して、海外サプリメントや市販されているサプリメント、薬として処方されるビタミンEでは「酢酸 d-α-トコフェロール」や「酢酸dl-α-トコフェロール」が配合されている物が殆どで、いわゆる「天然型」や「合成型」と呼ばれています。こちらはビタミンEを酸化・劣化から守るために「エステル化」という加工がされています。

エステル化とは、いわゆる「コーティング」のようなもので、抗酸化力を発揮する水酸基の部分をアルコールや酢酸などの物質と結合させて安定化する加工のことです。この水酸基をエステル化させることによって、空気や光などからビタミンEが酸化されないよう防いでいます。

しかし、このエステル化を行ってしまうと、デメリットも大きくなってしまいます。それが、先ほどの「抗酸化力の低下」です。エステル化を行うと、水酸基から「H」の水素が外れにくくなってしまうため、十分な抗酸化力は望めません。このことから、合成ビタミンEが体内に入っても、本来の栄養素としての働きが十分に行えない可能性があるのです。

また、合成ビタミンにはもう一つの問題もあります。それが、d体とl体のビタミンEが両方含まれている可能性があることです。

ビタミンEには、d体とl体があって、先ほどご紹介した「d-α-トコフェロール」「d体」になります。対してl体は、このd体の光学異性体、つまり鏡映しにした形のものです。

d体のビタミンEは植物や生物に含まれている主要な形であり、ほぼすべての生物がd体のビタミンEを利用しています。逆に、l体のビタミンEは植物や生物には殆ど含まれておらず、生物内、生体内においての合成や利用も難しいことから、ほぼ利用されていません。

合成ビタミンEは、化学的な合成過程からl体のビタミンEも発生することから、このd体とl体が両方混ざっている場合があります。もし、仮にl体が半分入っていたとしても、体が利用できるのはd体のみです。その場合、半分は「異物」として捨てられてしまうことになります。

このように、一言で「ビタミンE」と書かれていても、天然のビタミンEと合成のビタミンEではその栄養素の構造や働きが全く異なります。分子栄養学でサプリメントを用いる際は、必ず天然由来の成分である事が重要です。

ただし、天然のものであっても、製造方法や製造管理、保管方法などによっては、体内に入るまでに酸化、劣化してしまう場合があります。このような酸化、劣化した栄養素を摂取すると、逆に体内で悪影響となるので注意が必要です。

例えば、先ほどのビタミンEで言えば、酸化されたビタミンEが体内に入ると酸化ストレスを増加させる可能性があります。酸化ストレスとは、体内の酸化反応が過剰になり、細胞や分子がダメージを受ける状態のことです。

酸化されたビタミンEは、元々の抗酸化能力を失っているため、体内の酸化反応を調節する能力が低下しています。すると、逆に他の物質から水素(H)を奪い取ろうとするので、今度は他の分子や細胞が酸化され、ダメージを与えてしまうのです。

このような酸化した栄養素を摂取する事による酸化は、細胞内で活性酸素種と呼ばれる反応性な分子が生成される原因となり、これが細胞やDNA、たんぱく質などの構成要素を攻撃してダメージを与える可能性があります。

サプリメントは通常の食事と違って濃縮された特定の栄養素を大量に摂取するので、もしサプリメントに含まれる栄養素が酸化していた場合、その影響は計り知れません。

このように、「天然型」「保存料不使用」「添加物不使用」などと書かれていたとしても、そのサプリメントに含まれる栄養素が酸化・劣化しておらず、体内で安全に利用出来る形になっているとは限らないわけです。

昨今では、健康ブームによって「保存料」や「添加物」などを過剰に避ける方が多くなってきました。しかし、本当の天然由来の栄養素は腐りやすく、何も対策しなければすぐに酸化・劣化してしまいます。保存料や添加物が入っていないもの=良い物という認識は大きな間違いです。

本当に良いサプリメントは、天然由来の成分を使って栄養素を守る工夫や、医薬品と同じようなコストがかかる製造方法・管理方法で栄養素の品質を守る工夫がされています。分子栄養学で用いる栄養素は、天然由来の成分である事に加え、その栄養素がきちんと体内で安全に働くことが出来る状態になっているかを考慮することも重要です。

はる かおる

分子栄養学でサプリメントを用いる場合は、そのサプリメントが「合成」なのか「天然」なのか、はたまた「エステル化」されているのかどうか、「酸化・劣化」しやすい製造方法なのかを見極める「力」が必要になるよ。このあたりの知識についても、よく学ぶようにしてね。

栄養素の活性型と前駆体の違い。分子栄養学では、必ず「前駆体」を用いましょう。

次に、栄養素の活性型と前駆体の違いについてです。栄養素には、同じように見えても「活性型」と「前駆体」があります。食品などに含まれる栄養素は、体内に入ってもそのままの形では働くことが出来ません。いったん身体の中で働ける形(活性型)に変えられてから、やっと働けるようになります。

前駆体は、この活性型になる前の状態を言い、食品やサプリメントに含まれる栄養素のことです。体内では、酵素の働きによって必要に応じて前駆体から活性型に変換されて利用されています。対して活性型の栄養素とは、骨粗しょう症の治療に用いられているビタミンD製剤や、ニキビの治療薬として使われている「ビタミンA製剤」などです。お薬で使われる栄養素は、既に活性型として配合されているため、速効性があり、誰に対しても同じように効果が期待出来ます。

例えば、ビタミンAには「レチノール」「レチナール」「レチノイン酸」という3つの種類があります。また、ビタミンAの一種と言われているβカロテンも必要に応じてレチナールに変換されています。このうち、「βカロテン」「レチノール」が前駆体で、「レチナール」と「レチノイン酸」が活性型です。(※正確にはレチノール、レチナール、レチノイン酸共に活性型ですが、ここでは分かりやすくするためにレチノールを前駆体としています)

単にビタミンAといっても、その中には様々な種類がある。特に前駆体であるレチノールやβカロテンと、活性型であるレチノイン酸は働きが異なるので、区別することが大切

レチノール(レチニルエステル)は主にレバーや魚の脂肪部分、肝臓部分に含まれていて、普段私達が食品から得られるビタミンAです。また、βカロテンは主に緑黄色野菜に含まれています。これらは体内で必要な量を必要なだけ、必要に応じて「レチナール」や「レチノイン酸」に変換(活性化)されて利用されています。

食品に含まれるビタミンAには主に2種類あり、動物性食品に多く含まれるレチノールと、緑黄色野菜に多く含まれるβカロテンがある

対して、皮ふ科などの治療で用いられているのが、既に活性型のビタミンAである「レチノイン酸」です。レチノイン酸には細胞の分化・増殖を促進し、皮膚の細胞分化やターンオーバー(新陳代謝)を調節する働きがあります。このことから、主にニキビの治療薬として使われています。

このように聞くと、栄養素は前駆体で摂らずに活性型で摂った方が効果が高いのでは?と思いますよね。しかし、活性型で摂った場合は身体が本来持っている調節機能を無視して栄養素が働いてしまいます。そのため、場合によっては栄養素の働きをコントロールできなくなり、副作用が出たり逆に生体内の分子や代謝が乱れたりしてしまう原因になるのです。

このため、活性型の栄養素と前駆体の栄養素では、同じ栄養素に見えても全く働きが異なります。薬として使われる活性型の栄養素は、体内での栄養素の働きを強制的にコントロールするのに対し、前駆体である栄養素は、どのように利用するかを生体内のコントロールに任せることが出来ます。

分子栄養学では、生体内でコントロールできない活性型の栄養素を摂取するのでは無く、前駆体を摂取して栄養素の働きは身体に任せることが重要だと考えています。

分子栄養学と薬物療法の違い

薬物療法

  • 既に活性化したもの(薬物)を投与する
  • 栄養素や体内での働きを強制的にコントロールする
  • 速効性がある、誰にでも同じように効果が期待出来る

→副作用がある

分子栄養学

  • 天然物を投与する
  • 栄養素の利用は生体内のコントロールに任せる
  • 速効性は無いが、人それぞれにあった効果が期待出来る。

→副作用が少ない

もちろん、活性型の栄養素である薬がすべて悪いと言っているわけではありません。人によっては酵素の働きが弱く、栄養素を摂取しても体内で十分に栄養素を活性化できない人もいます。このような個体差や状況によっては、活性型である薬を用いることも必要です。

しかし、私達の身体は本来、栄養素を必要に応じて、必要な分だけ活性化して使う機能が備わっています。この機能が乱れていることこそが「分子の乱れ」であり、体内の分子が本来あるべき正常な状態ではなくなる事です。

このような1つの栄養素が体内で活性化されるプロセスには、タンパク質や様々なビタミン・ミネラル等様々な栄養素が関係しています。どれか1つでも欠けると正常なプロセスが行えなくなることから、このような栄養欠損が「分子の乱れ」に繋がります分子栄養学では、不足している栄養素を至適量補給することによって「分子の乱れ」を改善し、身体本来の機能を取り戻す療法です。

単にこの栄養が足りないからといって、安易に活性型の栄養素である薬を用いることは、むしろ体内の分子を乱してしまうことに繋がります。活性型の栄養素(薬)は、本来の身体が持っている調節機能を無視して栄養素が働いてしまうことから、日常的な栄養補給の用途として使うべきではありません。活性型の栄養素(薬)と前駆体の栄養素では、全く役割が異なるのです。

薬は症状を抑えるためのもの。大して栄養素は壊れた細胞を修復するためのものです。これら2つは役割が異なることから、適切に使い分けることが必要

このように、同じ栄養素に見えても、その分子構造や製造方法、天然や合成か、加工がされているか、活性型か前駆体かでも働きが大きく異なります。

栄養素は体内で酵素と結びついて初めて利用出来る状態になります。そして、それらが身体の中で自由にコントロール出来なければなりません。そのためには、限りなく天然に近い形である事が必要です。人工的に合成された栄養素や、もともと天然物を使っていても保存性を良くするために誘導体をつけたり加工したりしたものでは、体内で酵素と結びつけずに、異物として排泄されたり効果が弱まったりしてしまう可能性があります。

そのため、分子栄養学を実践するときは、必ず天然由来で、かつ前駆体の栄養素を摂取することが重要です。この違いを理解することは、分子栄養学を理解する上で非常に重要となりますので、是非覚えておいてください。

ちなみに、ビタミンAといえばよく過剰症について言われることがあります。ビタミンAをサプリメントなどで摂り過ぎると、死に至るなど危険が伴うというものです。

ビタミンA過剰症や副作用報告は合成のレチノイン酸の大量投によるもので、前駆体であるレチノールでテストされたものではない

この点については、前駆体である「βカロテン」や「レチノール」ではそのような危険性はありません。なぜなら、副作用の報告のすべては活性型である「合成のレチノイン酸」を大量投与した結果であって、決して「レチノール」や「βカロテン」でテストされたものではないからです。

ビタミンA過剰症についての注意喚起では、その情報の多くが活性型のレチノイン酸と前駆体である「レチノール」「βカロテン」などを混同しています。基本的にレチノールなど前駆体のビタミンAでは、活性を持たないことから安全性が高いビタミンAです。

加えて、「レチノール」と「レチナール」は体内で必要に応じて相互に変換することができ、体内でビタミンAを運ぶ際や貯蔵する際にも「レチニルエステル」というエステル化(コーティングのようなもの)が行われます。例えビタミンAを摂りすぎたとしても、体内では「レチナール」を活性の低い「レチノール」にしたり、レチニルエステルという非常に安定性が高い状態にして肝臓に貯えることが出来ます。

そのため、前駆体である「レチノール」や「βカロテン」をサプリメントで摂ったとしても、基本的に過剰摂取の心配はありません。

また、体内では必要に応じて「レチノイン酸」に活性化して利用されますが、この体内で作られる「レチノイン酸」と薬で用いられる「レチノイン酸」の作用は異なります。

例えば、体内でレチノイン酸が生成される場合、その生成量やタイミングは生体の調節機構によって厳密に制御されています。一方、薬など外部から投与される場合は、一度に大量のレチノイン酸が体内に供給されるため、自然な生体調節とは異なる影響を及ぼす可能性が高くなるのです。

つまり、体内で作られるレチノイン酸は、作られる量や作られた後の分解量、分解するタイミングなどを身体がコントロールできるのに対し、外部から投与したレチノイン酸は、身体がコントロールする事が出来ません。このため、外部から投与するレチノイン酸の作用と、身体の中で作られるレチノイン酸の作用は、同一視してはならないのです。

このように、ビタミンAには様々な種類があり、過剰症のリスクがあるのは活性型である合成の「レチノイン酸」になります。このレチノイン酸も、生体内で作られるレチノイン酸と、薬で使われているレチノイン酸とでは作用が異なることから、同一視しないようにしましょう。

ナンナン

何だか難しい話でよく分からないけど、とにかく食品に含まれる成分と同じ物ならOKって事だね

はる かおる

そうそう、サプリメントの中には、人工的に合成されたものや加工された物も多く販売されているよ。そのような人工物は使わず、必ず食品由来の天然成分を摂取することが大切だね。

使用するサプリメントの質に注意!サプリメントにおいて重要なのは消化と吸収です。

分子栄養学で用いるサプリメントで、もう一つ気をつけたいのが、サプリメントの質です。

サプリメントには、上述した「合成型」と「天然型」「活性型」と「前駆体」の違いに加えて、その栄養素がきちんと消化吸収されるか?ということも重要になります。

例えば、市販されているサプリメントの中には、胃や腸で全く溶けないものがある事が報告されています。胃や腸で溶けないものは、身体の中で不要と見なされ、そのまま便に排泄されてしまいます。

市販されているサプリメントの中には胃や腸で溶けずにそのまま便に排泄される物もある

そうなると、栄養素としての効果はほぼありません。栄養素は消化・吸収されて初めて意味があるので、きちんと消化・吸収されることが実証されているサプリメントを選ぶことが非常に重要です。

また、人によっては胃酸の分泌量が少ない、胆汁酸の分泌量が少ないなど消化吸収に問題を抱えている場合があります。胆汁は、水と馴染まない脂質や脂溶性のビタミンを水に馴染みやすく(乳化)して血管内に吸収出来るようにする働きをしています。

もし、胃酸の分泌量が少なかったり、胆汁酸の分泌量が少ない場合は、タンパク質が上手く消化できなかったり、脂質や脂溶性のビタミンが上手く吸収出来なくなってしまいます。

このような場合は、予めタンパク質が低分子化されているプロテインを選んだり、胆汁酸の分泌量が少なくても吸収出来るようにミセル(自己乳化型)加工されているものを選ぶことも重要です。

それから、サプリメントによっては栄養素よりも人工甘味料を始めとした添加物のほうが多いものや、栄養素が既に酸化・劣化して効力を失っている物、自然界に存在しない化学構造に加工された物、日本では承認されていない医薬品成分が混入しているものなどもあります。

サプリメントには法律で禁止されている成分が混入している場合がある。日本よりも質が良いと言われる米国製サプリメントであっても注意が必要

特に海外サプリメントの中には、日本で承認されていない医薬品成分が混入している事件が相次ぎ、厚生労働省も注意を呼びかけています。このような混入成分は、パッケージの成分表示には記載されていないことから、成分表示だけを見て混入しているかどうかを判断することは困難です。

また、海外サプリメントの中には自然界に存在しない化学構造のサプリメントも販売されています。特に流行っているものとしては、メガビタミン健康法でよく使われている「アミノ酸キレート鉄」です。

海外サプリメント通販で手軽に入手出来るアミノ酸キレート鉄。吸収率が高い代わりに鉄過剰のリスクが高い

アミノ酸キレート鉄とは、鉄分の吸収を高めるために、鉄分子をグリシンと呼ばれるアミノ酸と結合(キレート加工)された天然界には存在しない成分の事です。

アミノ酸キレート鉄は、その吸収力の高さから一部の人達から絶大な人気を誇っています。しかし、吸収力は高いものの、その利用効率は悪く、場合によってはフェリチン値が異常値まで上昇する、体調が悪くなるなどして病院に駆け込む事例も散見されています。

フェリチン値は炎症でも上昇することから、炎症によってフェリチン値が上昇しているものと考えられます。もし、このような状態のままサプリメントを摂取し続けた場合、むしろ肝臓へのダメージや、生体内の分子の乱れを引き起こしてしまう可能性が高いです。

ですので、分子栄養学を実践するときは必ず血液検査を受け、市販サプリや海外サプリで代用せず、必ず分子栄養学実践専用に設計・製造されたサプリメントでアプローチするようにしましょう。

質の良いサプリメントを選ぶ条件。含有量や値段で選ばずに、原材料の質や消化吸収を考慮した設計、汚染物質などのチェックがしっかりされているものを選ぶとよい。

分子栄養学基礎⑥ 身体本来の機能を取り戻すには、運動・栄養・休養の3つのバランスを取ることが必要。そして、その目的のために必要な栄養を摂るという考え方が重要です

では、天然由来で前駆体の質の良いサプリメントを至適量摂取していれば、それだけで身体本来の機能を取り戻せるのでしょうか?

多くの方は、サプリメントを摂取する目的として、「何か不調を改善したい」「病気を予防したい」「もっと健康的な生活を送りたい」などの目的があるかと思います。

多くの方は、栄養素を摂取する目的として病気の予防や改善のために利用している。しかし、栄養素を摂取するだけで病気の予防や改善が得られるわけではない

しかし、このような不調の改善や病気の予防、健康増進は、単に栄養補給を行っているだけでは目的を達成させることは出来ません。なぜなら、不調の改善や病気の予防を行うためには、運動や睡眠などの生活習慣が深く関係していることに加え、社会的繋がりやライフスタイルなどの環境的、社会的、心因的な要因なども関係しているからです。

例えば、慢性疾患やガンなど、多くの病気は生活習慣が関係していると言われています。

ガンを始め、多くの病気は生活習慣が原因となっている。そのため、多くの病気は生活習慣の改善で予防と改善が可能

ガンの場合は、発症原因に生活習慣が70%以上関わっているとされており、遺伝的素因としては30%以下です。また、糖尿病や生活習慣病などの慢性疾患に至っては、90%以上の原因が生活習慣であり、遺伝的素因は10%以下です。どちらも、生活習慣が病気の発症原因として占めている割合が高いことが分かります。

この病気の原因となる生活習慣としては、食事や栄養の偏りなども関係していますが、それ以外にも運動や睡眠、ストレスや環境などのライフスタイルも関係しています。病気の予防や治療効果を高めたい場合は、このような生活習慣の改善を同時に複数行うことが重要です。

例えば、科学的根拠に根ざしたガン予防ガイドライン「日本人のためのがん予防法(5+1)」では、確実に効果が期待出来るような生活習慣改善法として「禁煙」「節酒」「食生活」「身体活動」「適正体重の維持」の5つの改善可能な生活習慣に「感染」を加えた6つの要因を挙げています。

https://ganjoho.jp/public/pre_scr/cause_prevention/evidence_based.htmlより

これらの要因はガンの発症に繋がる可能性があり、ガンを予防するためにはこれら生活習慣をすべて改善していくことが最も効果的です。この生活習慣の改善は、どれか1つを集中的に行ったとしてもほとんど効果は期待出来ません。

この事は、科学的根拠に根ざしたガン予防ガイドライン「日本人のためのがん予防法(5+1)」の中でも解説されています。

https://ganjoho.jp/public/pre_scr/cause_prevention/evidence_based.htmlより

国立がん研究センターによると、この5つの健康習慣を実践する人は、0または1つのみ実践する人に比べ、男性で43%、女性で37%がんになるリスクが低くなるという推計が示されました。

上のグラフからも分かるように、1〜2つの生活習慣を改善してもあまり効果は期待出来ず、実践した健康習慣の数が多くなるほど予防効果が高くなるという結果が出ています。これは、ガンに限らず糖尿病や認知症など生活習慣病の予防に関しても同様です。

つまり、いくら分子栄養学に基づく栄養アプローチを行っても、それだけで病気の予防や健康維持は出来ません。どんなに質の良いサプリメントを摂ったとしても、運動不足や飲酒、喫煙、暴飲暴食などその他の生活習慣が悪かった場合は、殆ど健康効果が期待出来ないのです。

分子栄養学では、至適量の栄養補給に加えて生活習慣の改善が大切

このため、分子栄養学を実践する際は、栄養アプローチを行う事に加えて食生活を含めた生活習慣の改善も同時に行うことが必要です。特に運動や睡眠は重要で、運動と質の良い睡眠、栄養補給が合わさって初めて、体内の乱れた代謝や分子が整ってきます。これは、運動したことによる組織への刺激や、質の良い睡眠をとることによって、摂取した栄養素が身体を作ったり修復したりすることに使われるためです。

では、なぜ栄養補給を行うだけでは生体内の分子の乱れや代謝の乱れが整えられないのでしょうか?分子栄養学では、至適量の栄養を補給することで生体内の分子の乱れが整い、自然治癒力が向上して病態改善が得られると言われています。

このように聞くと、栄養を摂っているだけで病態改善や予防効果が得られそうに聞こえますよね。しかし、栄養素を摂ったら摂った分だけ身体が勝手に栄養素を使っていくというわけではありません。

摂った栄養素は、身体を作ったり修復したりする材料として使われて初めて意味があります。この栄養素を体内で有効に使うためには、身体を動かして筋肉量を増やすなど、自らの活動を通して意図的に使っていくことが必要です。

具体的には、筋肉量を維持、増加させるためにはそれなりの負荷を筋肉にかける必要がありますし、骨粗しょう症の改善などで骨を丈夫にするためには骨に刺激を与えることが必要です。身体は、このような組織への刺激と、修復する材料となる栄養素が合わさることで、始めて修復や増強を行ってくれます。

しかし、現代社会では、昔に比べて車や電車などの移動手段が発展したことで、歩いたり走ったりして移動する機会が減少しました。加えて、インターネットの発展によるリモートワークへの移行、洗濯機など清掃家電や調理家電等の進化などによって移動や家事を行う機会も減少し、座位を中心とした運動不足の生活習慣が慢性化しています。

筋肉量は加齢と共に減少していき、これに伴って基礎代謝も低下する。特に現代社会では運動量、活動量の低下から筋肉量が減少しやすい

このような生活環境による運動不足の状態では、筋肉や骨に刺激が与えられないことから、身体は運動機能が不要になったと判断して筋肉量や運動機能が低下していきます。この筋肉量の低下や身体機能の低下は「基礎代謝」の低下を招き、糖尿病や肥満などの生活習慣病に繋がる原因です。

つまり、栄養療法だけをしっかり行ったとしても、運動しなければ筋肉量や身体機能が低下し、むしろ病気のリスクが上昇してしまうのです。

ナンナン

げげっ❗栄養補給だけで病気の改善や予防は出来ないのか💧

はる かおる

そうだよ。栄養は単に入れただけでは使われないんだ。栄養をしっかり使っていくためには、よく食べてよく動いて、よく寝ることが大切だね。

筋肉量の低下は代謝と運動機能の低下。代謝と運動機能の低下は、生体内分子の乱れです。

この筋肉量の低下で危惧されるのが、代謝機能の低下です。筋肉はタンパク質で出来ていることから「タンパク質代謝」に直接的な影響がありますし、筋肉を動かすためにはエネルギーとなる糖質や脂質も必要なため、「糖代謝」や「脂質代謝」とも関係があります。

筋肉量の低下は、これら糖質や脂質、タンパク質の利用量(基礎代謝)も低下させます。すると、使い切れなかった糖質や脂質が脂肪として貯えられ、太りやすくなります。この筋肉量の低下による肥満が、サルコペニア肥満やメタボリックシンドロームなど、生活習慣病へと繋がってしまう原因になるのです。

筋肉量が低下すると基礎代謝が減少し、肥満になりやすくなる。筋肉量低下と肥満が合わさった状態をサルコペニア肥満という

サルコペニア肥満とは、筋肉量が低下する「サルコペニア」と脂肪蓄積による「肥満」が合わさった状態を言い、メタボリックシンドロームはお腹周りが大きいことに加えて、血圧の上昇や空腹時高血糖、脂質の異常値のうち2つ以上が当てはまる状態の事です。

サルコペニア肥満では、筋肉量の低下と肥満が同時に引き起こされる事から、メタボリックシンドロームの原因となる糖尿病や高血圧、脂質異常症などの代謝疾患と、ロコモティブシンドロームなど運動機能低下のリスクが非常に高まります。

また、肥満と聞くと太っている人を想像するかも知れませんが、太っていなくても注意が必要です。特に日本人の場合は欧米人に比べて、肥満でなくても生活習慣病を発症する人が多いと言われています。その原因として、近年注目されているのが、肝臓やすい臓など脂肪組織以外の様々な臓器に脂肪が蓄積する「異所性脂肪」です。

太っているように見えなかったり、体重が標準だったりしても、肝臓やすい臓などの臓器に脂肪が蓄積している場合もある。

異所性脂肪では、本来脂肪が蓄積することのない臓器に脂肪が蓄積することで、臓器機能を低下させます。日常生活で特に身近なものとしては、お酒の飲み過ぎや糖質、脂質の摂りすぎによる脂肪肝です。脂肪肝では、肝臓が慢性的に炎症状態となり、ダメージを受けて肝硬変や肝臓ガンなどに進行する原因になります。

他にも、すい臓や筋肉に脂肪が蓄積することでインスリンの分泌や筋肉組織の糖と取り込みを抑制することで糖尿病にも繋がります。これら臓器に異所性脂肪が蓄積することによって、タンパク質代謝や糖代謝、脂質代謝の機能を低下させることから、メタボリックシンドロームを招くリスクが非常に高くなります。

このような異所性脂肪の存在は、身体の外側から見ても見分けることは出来ません。そのため、太っているように見えなかったり、BMI値や体重が適正だったりしている人も注意が必要です。

もし、このようなサルコペニア肥満やメタボリックシンドロームの状態で年齢を重ねていくと、筋肉量や運動機能の低下から、ロコモティブシンドロームや認知機能低下など、更なる生活習慣病の発展に繋がる可能性があります。

メタボリックシンドロームでは、代謝機能も筋肉量も減少することから、ロコモティブシンドロームへ進行しやすい

ロコモティブシンドロームとは、骨や筋肉、関節、神経などの運動器に障害が生じたことにより、歩行するための移動機能が低下した状態の事です。

通常、腰や膝などは骨格や筋肉によってある程度の重さや負荷にも耐えられるようになっています。しかし、食べ過ぎや運動不足、サルコペニア肥満やメタボリックシンドロームを抱えたまま年齢を重ねている方は、膝や腰を支える筋肉がないため、重さや負荷に耐えられません。

ロコモティブシンドロームでは、移動機能が低下することから要介護状態へとなりやすい
ロコモで活動量が低下し、要介護状態となると脳機能も低下しやすい。その結果、認知症を発症するリスクが高まる。

すると、動く事が苦痛になって更に動かなくなり、運動機能が低下します。運動機能が低下すると、骨が弱って骨粗しょう症を発症しやすくなることから、転倒のリスクも高まります。もし転倒して骨折した場合は、長期間ベッドで過ごすことになってしまい、ますます運動機能の低下と骨密度の低下を引き起こします。

同時に、動かない時間が増えることから外部とのコミュニケーションや社会との関わりも減少し、脳機能も低下して認知症を発症するリスクが高まります。

このように、ロコモティブシンドロームと認知症は相互に影響を与え合って負の連鎖を引き起こします。筋肉量の低下や身体機能の低下は、代謝の低下や生体内の分子の乱れ(病気)と深く関係しているのです。

ナンナン

ひょえー❗運動不足や肥満って、将来的に要介護や認知症を発症する原因になるのか💦

はる かおる

そうだよ。それに肥満や運動不足はガンの発症とも関連していると言われているんだ。よく糖質の摂りすぎが万病の元みたいに言われるけど、そうじゃない。運動不足や筋力量低下によって食べたものがきちんと代謝出来なくなっていることこそが、万病の元になるんだ。

ナンナン

やっぱり運動って大事なんだね💧 今度から、運動する習慣も取り入れることにするよ

分子栄養学では、運動・栄養・休養の3つの目的のために必要な栄養を摂るという考え方が重要です

では、どのようにすれば、サルコペニア肥満やメタボリックシンドローム、ロコモティブシンドロームなどの生活習慣病を予防、改善できるのでしょうか?

このような生活習慣病を予防、改善するためには、やはり運動して筋肉量を増やしていくことが必要になります。年齢を重ねると筋肉は付きづらくはなっていきますが、いくつになっても筋肉を増やす事は可能です。

ただ、運動するときは、同時に筋肉の材料となるタンパク質を十分に摂取する事が重要です。もし、十分な栄養を補給しないまま運動してしまうと、むしろ筋肉量を減らしてしまう可能性があります。

運動+アミノ酸、またはアミノ酸だけを摂取して貰ったグループでは筋肉が増加する結果となった。しかし、アミノ酸の偽薬を用いたプラセボ群では筋肉量が減少した。

例えば、75歳以上の女性39名に軽い運動とアミノ酸(タンパク質が分解されて消化吸収しやすくなったもの)の栄養補給を行ってもらったところ、脚部筋量が有意に増加する結果となりました。また、運動せずアミノ酸だけを摂取した38名のグループでも、筋肉量が若干増加する結果になっています。

しかし、アミノ酸の偽薬を用いたプラセボ群では、むしろ筋肉量が減少するという結果になりました。このことから、筋肉量を増やすためには第一に栄養補給が重要です。この栄養補給と運動を組み合わせることが、筋肉量を増やす上で最も効果的です。

ちなみに、運動せずに栄養補給だけを行った場合でも筋肉量は僅かに増加しますが、それはあくまで日常生活で必要とされる程度の筋肉量か、もしくは筋肉量をなるべく落とさないようにする程度です。栄養補給を行っているだけで、筋肉ムキムキになっていくことはありません。

特に現代社会の生活様式では全体的に活動量が低下しているため、日常生活における活動だけで、病気の予防や代謝を整えるほどの筋肉量を維持、増加させる事はほぼ不可能です。やはり十分な筋肉量を増やす、維持するためにも、運動する習慣は必ず取り入れるようにしましょう。

それから、運動した後に筋肉を修復したり増やしたりするためには、質の良い睡眠を取ることも必要です。身体の修復は、夜寝ている間に行われています。この睡眠の質が悪かったり、睡眠不足の状態では、身体の修復が十分に行われません。このような場合は、むしろ筋肉量が低下していく原因になります。(体タンパク異化亢進)

このため、質の良い睡眠がとれるようにも心がけていきましょう。よい睡眠を取るためには、体内時計を司っているセロトニンやメラトニンを整えたり、副交感神経や交感神経など自律神経を整える事が重要です。これらも栄養から必要な物質が作られていることから、栄養も必要です。

例えば、貧血の状態は不眠や睡眠の質が悪化するなど様々な不定愁訴を引き起こす原因になります。この記事の途中でも解説したように、鉄分はセロトニンなど脳の神経伝達物質の合成に必要なほか、自律神経の調節にも関係しています。貧血を改善する事は、よい睡眠を取るための第一歩です。

つまり、病気を予防したり、健康を維持するためには、運動・栄養・休養の3つのバランスを取ることが必要であり、その目的のために必要な栄養素を摂取するという考えが重要になります。

栄養素は、運動したりよい睡眠をとったりして、体内で利用されて初めて意味がある。そのため、分子栄養学ではこの3つの目的のために必要な栄養素を摂取するという考え方が重要です。

分子栄養学における栄養アプローチは、この3つの目的のために栄養素を摂取する事であって、決して栄養素だけで病気を治すといった療法ではありません。この部分の認識は、分子栄養学で特に間違われやすい事の1つです。

例えば、「糖尿病に効果がある栄養素を摂取する」のではなく、「糖代謝を改善させるために必要な筋肉をつける、運動するために必要な栄養素を摂る」事が正解です。

他にも、「ガンに効く栄養素を摂取する」のではなく、「ガンの発症原因となる生活習慣や、肥満を改善させるための運動に必要な栄養素を摂る」といった感じです。

先ほども解説したように、病気の殆どは生活習慣が大きく関係しています。生活習慣の改善無しに、生活習慣病の改善はあり得ません。分子栄養学は、これら3つの目的をサポートするためのものです。何か特定の栄養素を摂取しただけで病態改善が得られるわけではない点には十分理解しておきましょう。

分子栄養学を実践する上で重要な考え方

  • 痩せる栄養素は何ですか?
    基礎代謝を上げるために運動して筋肉を付ける。そのために必要な栄養を摂る◎
  • 糖尿病に効く栄養素はなんですか?
    糖代謝改善に運動と筋肉量アップが必要。そのために必要な栄養素を摂る◎
  • ガンに効く栄養素は何ですか?
    ガンの予防、改善にも運動と筋肉量アップが必要。そのために必要な栄養素を摂る◎
  • 眠れるようになる栄養素を教えてください
    質の良い睡眠には、自律神経のバランスを整える、運動することが必要。そのために必要な栄養素を摂る◎

分子栄養学では、栄養素を対処療法のように用いるのではなく、病気を予防したり、健康を維持するために必要な運動・栄養・休養の3つのバランスを整えるために必要な栄養素を摂取するという考え方が重要です。

もし、このような考え方をしっかりと理解していない場合、分子栄養学による栄養アプローチは明らかに間違った方向に進んでしまいます。

特に多いのが、分子栄養学を応用したガン治療として行われている、高濃度ビタミンC点滴の間違った認識です。

高濃度ビタミンC点滴とは、高濃度のビタミンCを点滴することで、血中ビタミンC濃度を飛躍的に高める方法です。高濃度のビタミンCには、正常な細胞に影響を与えず、がん細胞のみ特異的に攻撃するという抗がん効果があると言われています。

この仕組みとしては、高濃度のビタミンCを点滴することによって血液中に大量の過酸化水素が発生します。通常の細胞は過酸化水素を中和する「カタラーゼ」という酵素を出して守ることが出来ますが、がん細胞はこの「カタラーゼ」がないため、過酸化水素を中和出来ずに死んでしまいます。

このことから、高濃度ビタミンC点滴でガンが治るという認識がひろまり、高濃度ビタミンC点滴を受ける方が増えてきました。

しかし、ガン治療において高濃度ビタミンC点滴だけを行ってもほとんど効果は期待出来ません。なぜなら、ガンの発病には生活習慣も関係しています。この元を絶たない限り、ガン細胞はずっと増え続けて「モグラ叩き」の状態になってしまうからです。

栄養素は基本となるタンパク質やビタミン、ミネラル等を必要量補給することが大切。この基本がない状態で特定のビタミンやミネラルを大量に投与しても殆ど効果は期待出来ない。

そもそも、高濃度ビタミンC点滴(IVC)の分子栄養学の位置づけでは、「病態改善のために更に的を絞って追加するべき栄養素」の1つです。この手前には、基本的な栄養素となるタンパク質やビタミン、ミネラルなどがあり、まずはこれらの栄養欠損の改善と、生活習慣の見直しが重要です。

例えば、閉経後の肥満女性は、特に乳がんのリスクが高いと言われています。これは、肥大した脂肪組織が女性ホルモンであるエストロゲンの供給源になる事が影響していると考えられているためです。この肥満の原因は様々ありますが、多くはこの記事でも解説したように、生活習慣を原因としたサルコペニア肥満やメタボリックシンドロームが関係しています。

そして、乳がんの予防や、肥満、メタボリックシンドロームを改善させるためには、運動や栄養補給が欠かせません。筋肉を付けたり代謝を上げるためには、材料となるタンパク質やビタミン、ミネラルが必要です。

また、高濃度ビタミンC点滴を行う場合は、同時に口腔からも十分な量のビタミンCをこまめに補給して血中濃度を維持する必要があります。ビタミンCは水溶性ビタミンであることから、代謝されたビタミンCは数時間で尿から排泄されてしまいます。この排泄分を補うためにも、追加でビタミンCを口腔摂取していく事が重要です。

しかし、多くの方はこのような基本となる運動や栄養補給、生活習慣の改善を行わないまま、単に高濃度ビタミンC点滴だけを行ってしまいます。これではすぐにビタミンCの血中濃度が低下してしまうことに加え、ガンの発生源となる肥満や生活習慣の改善など「元」を絶っていないことから、最終的にはがん細胞が増殖する結果となってしまうのです。

つまり、ガン治療で高濃度ビタミンC点滴を用いるにしても、生活習慣の改善やその目的を行うために必要な栄養素を摂取するなど、分子栄養学の基礎的な部分も同時に行う事が必要です。いくら高濃度ビタミンC点滴に抗がん効果があるとしても、ただ単に高濃度のビタミンCを点滴で投与しているだけでは、身体本来の機能を取り戻すことは出来ません。

分子栄養学は、栄養素における体内での働きを理解し、至適量の栄養素を補給することで身体本来の機能を取り戻す療法です。何か特定の栄養素を摂取しただけで病態改善が得られるような療法ではありませんのでご注意下さい。

ナンナン

なるほど❗分子栄養学は特定の栄養素で病気を治す療法じゃ無くて、代謝を整えるために必要な栄養素を補給して身体を整えていく療法なんだね❗

はる かおる

そうそう、そういうこと。この部分は、特に勘違いされやすい部分だね。よく分子栄養学が怪しいって言われるけど、それはたぶん、何か特定の栄養素だけで病気が治ると勘違いしているんだと思うよ。

分子栄養学基礎⑦ 将来に備えるオプティマムヘルス。分子栄養学を学び、自分の健康は自分で守りましょう。

最後に、分子栄養学における重要な考え方として「オプティマムヘルス」があります。オプティマムヘルスとは、単に病気を予防するだけに限らず、心身ともに最高・最善の健康状態の実現を目指す事です。

私達は、病気になったり調子が悪くなったりすると、当然ながら気分が落ち込んだり、活動量が低下したりしてしまいますよね。逆に、体調が良い状態が続いていれば、気分も明るく活動的に過ごすことが出来ます。

ただ、中には体調不良の状態に慣れてしまって、不調であることの自覚がないまま、自分は健康だと思い込んでしまっている方もいます。また、分子栄養学で病気が治ったり、自分の中では健康だ、調子が良いと思っていたりしたとしても、分子栄養学的に見たら分子レベルではまだまだ改善の余地が残っている場合も多いです。

このような場合、ご自身では今が最高の状態だと思っていても、分子レベルで見たらパフォーマンスが低下している可能性があります。細胞それぞれの働きが低下している場合、あなたが本来が持っている能力をすべて発揮出来ているとは言えません。

例えば、自分の中では「よく眠れている」と思っていても、分子レベルで見たらまだまだ質の良い睡眠に改善出来る余地が残っている可能性があります。

また、ちょっとしたことでイライラしやすい、不安になりやすい、気分が落ち込むなどの精神的な症状や、疲れやすいといったことも、実は分子レベルで見たら改善出来る余地が残っているかもしれません。

あなたが「自分の性格だ」と思っていることや、「これが普通だ」と思っていることでも、実は栄養がまだまだ不足していることによって引き起こされている可能性があるのです。

このような不調や活動量の低下は、日々あなたの人生に影響を与え続けます。特にイライラしたり気分が落ち込むなどの精神的不調は、気がつかない間に人間関係や仕事などに影響を与えます。

もし、このような精神的な不調が無くなり、今よりも活動的になれたとしたらあなた自身でも気がついていないような能力やパフォーマンスがすべて発揮され、今よりももっと人生が変わると思いませんか?

この分子レベルで細胞を整え、あなた本来の能力をすべて引き出し、心身共に最高の状態を目指すことが、分子栄養学の最大の目的であり、オプティマムヘルス(最適な健康)と呼ばれる状態です。

分子栄養学は、単に病気を治したり予防したりするだけに留まらず、オプティマムヘルスを目指すことが目的です。

オプティマムヘルスとは、どのような環境下や激しいストレス下においても、常に最適な健康状態が維持できている状態の事です。人生では、その時々に応じて環境も変化しますし、良いこともあれば悪い事もあります。そのたびに体調が変化したり寝込んだりしていては、オプティマムヘルスの状態とは言えません。どのような状況下においても、最適な健康状態を維持できていることが理想です。

このオプティマムヘルスの状態を目指すためには、自ら分子栄養学を学び、自分の健康状態は自分で管理できることが必要です。

例えば、栄養の必要量は、運動や食事内容、体調によって日々変化します。オプティマムヘルスの状態を維持するためには、これらも考慮して、自らが日々分子栄養学を実践し続ける必要があります。

日常的な活動で言えば、

  • 今日はお酒を飲むからアルコール代謝に必要なナイアシンを多く摂っておこう
  • 今日はストレスが多くかかったから、カルシウム・マグネシウムを多く摂っておこう
  • 今日はいつもより運動量が多かったから、プロテインを多く摂ろう
  • 風邪を引いたみたいだから、ビタミンCを多めに摂ろう
  • 血液検査の結果でフェリチンが下がってきたから、ヘム鉄を多めに摂ろう

といった感じです。

このように分子栄養学では、単に病気の治療や予防という枠を超え、細胞レベルで常に最適な健康状態を得られるよう、その時々の状態に応じて最適な栄養補給を行っていく事が理想です。

そのためには、やはり自分自身の健康状態は自分で管理するという意識に加え、分子栄養学に関する知識も欠かせません。自分自身の状態は自分が1番理解していますので、自分に必要な栄養素は自分自身で判断出来ようになる事が重要です。

つまり、分子栄養学とは、自らの身体を自ら管理できるようになる学問でもあります。ここで解説した分子栄養学に関する事は、まだまだ基本中の基本で、学ばなければならないことは沢山あります。

もし、ここまで読んで分子栄養学に興味が湧いた方は、是非もっと深く分子栄養学を学んでみて下さい。分子栄養学を学べる教材としては、ケンビックスが行っている「KYBクラブ」「金子塾」があります。これらは分子栄養学の基礎を学べるほか、病態別のアプローチなど分子栄養学を応用したアプローチについても学ぶことが可能です。

病気の予防、健康管理は一生続きます。病気が治ったからといって、その後に分子栄養学の実践が必要なくなるわけではありません。分子栄養学は、学び続けること、実践し続けることが一番大切です。是非、分子栄養学を学び、自分の健康は自分で守れるようになりましょう。

ナンナン

分子栄養学は、身体に良いと言われている食べ物だけを食べるとか、特定の栄養素で病気を治すとか、そういった小手先の健康法じゃないよ❗ しっかり分子栄養学を学んで、自分の健康状態は自分で管理できるようになってね❗

はる かおる

お、ナンナンも分子栄養学について語れるようになってきたね。分子栄養学は、学び続けることと実践し続けることが一番重要だよ。ただ、最近は間違った分子栄養学の情報も増えてきているから、情報の質には気をつけてね❗

間違った分子栄養学の情報に注意!

近年、インターネットやSNSが発展したことから、健康に関する様々な情報が飛び交っています。分子栄養学においても、分子栄養学を学べるセミナーや講座が増えた事によって、これらを学んだ人達による情報発信が急激に増えてきました。

このような中で問題となってくるのが、間違った分子栄養学の情報です。分子栄養学の情報の中には間違った情報や、分子栄養学をしっかり理解せずに情報発信されたもの、独自理論を組み合わせたものや、自身の経験のみで語られた客観性、エビデンスのない情報なども発信されています。酷いものでは、全く分子栄養学でも何でも無いのに分子栄養学だと語られているものもあります。

例えば、以下のような情報は間違った分子栄養学の例です。

  • メガドーズ、メガビタミン療法
  • 食事内容の改善や、特定の食材を摂取するだけで至適量の栄養が得られ、病気が改善するとしているもの
  • この不調にはこの栄養素」といったように、単に不調の症状だけで栄養アプローチを行うもの
  • 海外サプリメント、単に安価なサプリメントなど、安全性、有効性が確認されていないサプリメントで分子栄養学の実践をおこなっているもの
  • 前駆体では無く、活性型の栄養素を用いているもの
  • ファスティングと分子栄養学を組み合わせるなど、独自理論が組み合わされたもの
  • 薬は一切使わない、栄養療法だけで病気が治るなど極端なもの
  • 病態や不調の根本原因を調べるための検査に誘導しないなど、栄養欠損となった原因をきちんと調べずに行っているもの
  • 医師免許を持たない者が、血液検査データを扱う、サプリメントを処方する、食事指導を行うなど、医療機関を通さずに分子栄養学の指導を行っているカウンセラー など

このような情報は間違った分子栄養学であり、実践することで病態や体調が悪化するなどむしろ命に関わる危険性があります。事実、当方にもこれら誤った情報を元に実践した方からの健康被害に関するご相談も増えてきました。

現代では個人がSNSで気軽に情報発信が出来る世の中になっています。このような時代だからこそ、間違った分子栄養学の情報にはくれぐれもご注意ください。

分子栄養学とは? 分子栄養学の基本をわかりやすく解説!まとめ

以上が、分子栄養学の基本についてでした。

分子栄養学は、生体内の分子の乱れ(栄養素)を整える事により、病気の予防や改善を図る療法です。私達の身体は、私達が日々食べたもので身体を動かしたり、作られたりしています。

この食べ物からの栄養が不足していたり、過剰だったりすると、生体内の分子が乱れて病気を引き起こす原因になります。この乱れた分子を整えるために必要なのが、至適量の栄養補給です。

そして、至適量の栄養補給を行う際は、限りなく天然由来で、かつ前駆体の栄養素を用いる必要があります。人工的に合成された栄養素や、もともと天然物を使っていても保存性を良くするために誘導体をつけたり加工したりしたものでは、体内で酵素と結びつけずに、異物として排泄されたり効果が弱まったりしてしまいますので注意しましょう。

それから、至適量の栄養補給を行う以外にも、生活習慣の改善や運動も重要です。栄養素は、単に入れただけでは使われず、身体を修復したり作ったりするためには、栄養に加えて組織に刺激を与えることが必要です。

もし、分子栄養学に興味ある方は、是非分子栄養学を学んで実践してみて下さい。分子栄養学については、ここで解説した以外にもまだまだ奥が深く、一生かけても学びきれないほど奥が深い学問です。

分子栄養学を学べる教材としては、ケンビックスが行っている「KYBクラブ」「金子塾」があります。これらは分子栄養学の基礎を学べるほか、病態別のアプローチなど分子栄養学を応用したアプローチについても学ぶことが出来ます。

KYBクラブについては、オーソモレキュラー療法・無料栄養相談申し込みページ で入会方法などをご案内しておりますので、ご興味ある方は是非ご覧下さい。

※当サイトは分子栄養学の普及を目的に、個人が独学で学んだ情報を発信しているサイトです。情報の正確性には配慮しておりますが、サイトに記された情報については、必ずしも正確性を保証するものではありません。また、サイトに示された表現や再現性には個人差があり、必ずしも利益や効果を保証したものではございません。
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